子供とのふれあいは言葉の発達に影響を与えるか?

ヒトは死ぬまで学習し続ける生き物です。

その人生の中でヒトは様々なことを学び続けますが、人生の初期に学ぶ大事なものの一つに”ことば”というものがあります。”ことば”というのは相手の話を聞いて自分の気持を伝える大事な道具ですが、この能力が発達するためには果たして何が大事なのでしょうか。


今日取り上げる論文はこのことばの発達についての脳科学分野の研究についてとりまとめた総説論文になります。

乳幼児のことばの発達についての研究は21世紀に入ってから大幅に進んだそうですが、これらの研究の中で様々なことが明らかになったそうです。

この論文の中でとりわけ重要な部分を紹介すると

・生後1年未満の言語学習はその後5歳までの言語発達に影響を与える。

・言語発達に大事なのは社会的な交流である。機械的な刺激では十分な学習が成り立たない。

・社会的な交流というのは必然的に乳幼児の注意力や覚醒レベルを高め、このことが言語学習を促進する。

・さらに社会的な交流は知覚と運動をつなぐ脳システムを活性化させることで発話能力を促す。

・赤ちゃんへの語りかけの多い母親の子供はその後の言語発達も良好である

といったことが様々な研究結果をもとに述べられています。

子供がことばを獲得する上で重要なのは、やはりヒトとのふれあいであり、これはことばが本質的にコミュニケーションの道具として発達してきた進化論的な背景があるのかなと思いました。

【要旨】

過去10年間に、幼児の早期言語処理過程についての神経科学的研究は非常な進捗を示した。 非侵襲的で安全な機能的脳測定装置が、出生時から始まる小児での使用に適していることが証明された。 幼児の言語に関する音韻能力については様々な実験的研究から明らかになった。 音韻レベルでの学習の神経反応は発達ごく初期の段階からあることが示されている。乳幼児の脳は音韻刺激に反応して言語発達が促されるが、この乳幼児の言語発達は2歳、3歳、5歳の言語能力に影響することが様々な研究から示されている。 音韻的単位の早期習得には、社会的な状況下での学習が必要であるという証拠がある。 ごく初期における言語学習についての神経科学的研究によって言語の基盤には複数の脳システムが関わることが明らかにされ始めている。

【参考文献】
Kuhl PK (2010) Brain mechanisms in early language acquisition. Neuron67:713–727.

なぜ子供とのふれあうことで言葉の発達が促されるのか?

私達人間は言葉を操る生き物ですが、このことばの学習には結構時間がかかります。

コンピュータのようにインプットすればすぐに発話できるというものではなく、発話以前にどれだけ多くのことばを耳にしてきたかというのが大事になってくるのですが、様々な研究から、ことばを聞くにあたって、生きた人間と関わりあうことが大事であることが示されています。

しかしながらなぜ生きた人間と直接関わり合うことでことばの発達が促されるのでしょうか。またそれはどのような研究で示されているのでしょうか。

今回取り上げる論文は、社会的な交流が幼児の音声知覚に及ぼす影響について調べたものです。

実験では英語を母語とする過程で育児されている生後9ヶ月の赤ちゃんに中国語もしくは英語で語りかけるというセッションを行い、これがどのように赤ちゃんに影響するかについて調べています。

ちなみにこのセッションは1回25分(10分間は絵本読み、15分は道具を使った指差し遊び)で約1ヶ月をかけて12回行っています。

このセッションの中国語の語りかけですが、実験室で実際にネイティブとふれあいながら行う条件と、事前録画で同じような内容をTVモニタで見せるだけの条件で行っています。

結果を述べるとやはり実際にネイティブとふれあいながらのセッションを行うことで赤ちゃんの音韻知覚能力の変化が見られるけれども、事前録画を見ていただけではなんの変化も見られないことが示されています。

なぜこのようなことが起こったかについてですが、この研究グループは、生きた人間とリアルタイムで関わることで相手の視線を追いかけたり、また視線の先にある物体に注意が向くことで音韻学習が促進されたのではないかということが述べられています。

9ヶ月以降というのは相手の視線がどこに向いているかについて十分な注意を向けられる月齢に当たりますが、こういった注意能力が音韻知覚学習に関わっているということで、

やはり赤ちゃんと一緒に絵本を読んだり遊んだりというのが、赤ちゃんがことばを学ぶ上で一番良いのかなと思いました。

【要旨】
幼児は顕著な速度で言語を取得するがその取得プロセスの基礎となるメカニズムについてはほとんど知られていない。言語の音声単位を対象になされた研究は、生涯の早い段階では、母国語と外国語の音を含むすべての言語の音声単位の違いを識別することができることを示している。 6〜12カ月齢の間に、外国語の表音単位を区別する能力は急激に低下する。 2つの研究では、外国語音声知覚におけるこの減少を逆転させるための必要十分条件について調査を行った。実験1では、9ヶ月のアメリカの幼児が、12の実験室でのセッションで中国語の母語話者に曝露された。対照群も12の実験室でのセッションに参加したが、英語のみを聞いた。中国語のスピーチ認識のその後のテストは、中国語への暴露が英国の対照群に見られる減少を逆転させたことを示した。実験2では、幼児は視聴覚または音声のみの録音を介して同じ中国語の話者と素材に暴露された。結果は、対人相互作用を持たない録画もしくは録音された中国語への曝露が、効果がないことを実証した。 9歳から10カ月齢の幼児においては、音韻学習は生きた人間との関わりが重要であり、事前に録画されたものでは効果がないこと、またこのような学習は長期の時間を要さず、社会的交流によって増強されることが示された。

【参考文献】
Kuhl, P. K., Tsao, F. M., & Liu, H. M. (2003). Foreign-language experience in infancy: Effects of short-term exposure and social interaction on phonetic learning. Proceedings of the National Academy of Sciences, 100,9096–9101